愛しい人



『俺のことが好きなら、俺のためにも晴紀と付き合ってくれないかな』

彼がどんな気持ちでこんな事を言ったのか、分からなくはなかった。

深山記念で働いている理由を知っているからだ。

彼には立場、というものがある。

『わかった。純正がいうなら、そうするわ。それで満足?』

愛するからこそ身を引くわ、なんて今時少女漫画の主人公でも言わないんじゃないだろうか。

これは私にとって人生初の失恋だった。

だから余計に……

それから半月くらいは食事も喉を通らないくらいには落ち込んだ。

ふとした時に涙が出て、彼の夢を見た。

思いが通じないのは辛い。苦しい。でも、想わずにはいられない。

失恋がこんなに辛いものとは想像していなかった。

ああきっと、晴紀も同じ辛さを味わったんだろうなと不意に思った。でも彼は、いつも変わらずにいる。

あれは強さなんだろうか。