「これが誓約書です。樹は今後一切小石川さんに関わりません。明日、日本を発ちます」
桂は、樹はイギリスへ行くのだと言った。当面日本へは戻らないという。
表向きはガーデニングの勉強なっているが花名と接触させないために社長らが下したことだった。
「こちらは退職金です」
差し出された封筒はかなりの厚みがあった。退職金というには多すぎる額だろう。
「いただけません」
「どうか、受け取ってください。でないと、僕の気持ちが治まりません」
「わかりました。今までお世話になりました」
桂に別れを告げ、花名は純正とホテルを後にする。
平静を装ってはいたが当時の事を思い出してしまい、胸が締め付けられて苦しい。
「大丈夫か、花名」
「はい。でもこれ、受け取ってよかったんでしょうか……」
退職金とは言われたが、慰謝料や口止め料としての意味合いが強いのではないかと思った。
「受け取りたくなかった?」
「そうですね。……でも、せっかくだから有意義に使わせてもらいます」
「有意義な使い方って?」
純正は聞く。
「はい。このお金寄付出来ないでしょうか。例えばお薬の開発とか、母のように治療を受けられない人のための基金とかそういうものに……そうすれば少しは受け取ってよかったって思えるでしょう?」
花名はそう言って微笑んでみせる。
「花名らしい、いい考えだ。調べておくよ」
「ありがとう、純正さん」
純正はそんな花名をとても愛おしいと思った。
終


