愛しい人

「……仕事は精一杯やっています」

言葉を濁す花名に樹は困った様に笑った。

「それ、答えになってなくない?」

 樹は言いながらラッピングペーパーの棚に手を伸ばしてピンクとブルーの不織布を手に取ると、それらを重ねて綺麗なパープルを作り上げる。

そして透明のセロハンと共に花束に纏わせてリボンを巻いて仕上げた。その出来栄えの美しさに花名は息を飲む。

「さあ、できた。……ねえ、もし小石川さんに配置転換の希望があるのなら遠慮なくいってくれていいから。人事は桂の範疇だけど、僕にだって口を出す権利はあると思うんだ」

樹の申し出に花名の心は揺らいだが、彼の仕事ぶりを見て新たな気付きも得た。

小さな店舗ではあるけれど、仕事は工夫次第でどうにでもなるということだ。

できないと思えばそこまでで、仕事を面白いと思うか、つまらないと思うかも自分次第なのだろう。それを彼は身をもって教えてくれた。頭が下がる思いがした。

「ありがとうございます。でも私はまだ、ここでやり切れていませんし」

「そっか。小石川さんって頑張り屋さんだね。でもあまり無理はしないでよ」

「はい。それとは別件で、今日なんですが……」

花名は樹に早退の話を申し出た。