「あなた純正の恋人なの?」
「はい、そうです」
「いわね。私も純正に愛されたかった……でも選ばれなかった」
茉莉花の言葉に花名は驚いた。記憶をなくしていると聞いていたからだ。
「目を醒ましてから少しして純正を好きだったことを思い出したの。それと同時に晴紀に愛された記憶も戻ってきてすごく混乱した……」
そう言って苦悶の表情を浮かべる茉莉花の苦悩が透けて見えるようだった。
「だから過去にこだわるのは止めたのよ。いま、自分を愛してくれる人を大切にしようって思ってる」
そう言う茉莉花の視線の先には晴紀の姿があった。話を終え戻ってきたのだろう。
「幸せになりましょう、お互いに」
「はい」
茉莉花と別れ、いったん雅恵の病室へと戻った。ここで純正の仕事が終わるまで待つことにした。
先に帰るといったが、一緒に帰ろうと言われてしまった。純正は花名がまたどこかに行ってしまうのではないかという不安を拭い切れないのだ。
「愛されてるのね、花ちゃん。でもちょっと過保護すぎない?」
理由を知らない雅恵はのんきにそんなことを言っている。
「そうかもしれないね。あ、そうだ。私のアパートの鍵、貸してもらえない?」
雅恵から合鍵をもらい純正が迎えに来ると病室を出た。


