樹は客を見送ると、すぐさまバラの花を数本取り出した。
専用の器具で棘を払い、花を引き立てるグリーンを選ぶ。
その手際の良さとセンスに花名は目を奪われた。束ねた茎を輪ゴムで留め、切りそろえる。
それから水を含ませた不織布で覆うとアルミホイルを巻いた。
「小石川さんはどの色が合うと思う?」
ラッピングペーパーの色のことを聞かれているのだと分かったが、急に話を振られた花名は言葉を詰まらせる。すると樹は勝手に話を続ける。
「そうだよね、聞かれても困るよね。ここは種類が少ないから選ぶのも限りがあるし」
言われて花名は小さく頷いた。樹の言うことは確かで、ここの店はほかの店舗に比べて、ラッピングペーパーやセロハンの種類もリボンの色も限られている。
だからと言って使いたいものを勝手に発注することは許されていないし、そもそも置いておくスペースもないので仕方のないことと諦めていた。
「小石川さんはこの店舗の仕事、楽しい?」
そう聞かれてとっさに返事ができなかった。限られた仕入れの花を、限られた素材を使って仕上げる。
病院の隣という立地からか、毎日が単調で、華やかさはまるでない。
せっかく佐倉園芸の社員として働いているのだから、ブライダルやレストランなどの装花の仕事をしてみたいと考えることもある。
しかし、マネージャーである樹を目の前にして本音を言っていい訳がない。


