「花名、おいで」
花名がドアロックへ手を伸ばすと、樹は彼女を背中から抱きしめる。
「お前! 花名から離れろ!」
純正の言葉を遮るように、樹は花名の耳元に唇を近づけて言った。
「騙されちゃだめだ。こいつはこうやって女の子をたぶらかすんだから。小石川さん、君は僕と一緒にいるべきだ。もう傷つくこともないし、仕事だってずっと一緒にできるんだよ。そうなったら楽しいだろう? ……ねえ、花名」
樹は必死だった。花名を繋ぎ止めようと言葉を尽くす。けれど、
「ごめん、なさい」
小さいけれど、しっかりと意志を持った声で花名は答えた。
「……どうして? こんな男のどこがいいの?」
「私は純正さんが好きなんです。お店で彼を見た時から、ずっと……理由なんてありません」
樹は花名を抱くただに力を込める。
「こんなにも愛してるんだ、君のこと……」
「樹さんには感謝しています。でも、好きという感情とは違います」
樹の手は力を失いだらんと下がった。


