愛しい人



「あんたは! てか、おい桂、これはどういう言ことだよ。なんでコツがいるんだ」

「ごめん、樹。僕たちは確かめたいことがあってここに来たんだ。小石川さん、ここにいるだろ?」

「いるわけないだろ……もう帰れ。じゃないと警察呼ぶからな」

 樹はドアを無理やり閉めようとする。しかし純正は両手を掛けそれを阻止した。

「なにすんだよ。あんた、医者だろ?」

「だからなんだ」

 医者は聖職者ではない。愛する人の前ではただの男でしかないのだ。花名を助けるためには罪を犯すことすらいとわない。

「警察でも何でも呼んでくれてかまわない。呼んで困るのはどちらか、そっちの方がよく分かってるんじゃないのか?」

「声が大きいんだよ」

 いいながら樹はちらりと廊下の先に視線を向けた。

(そこに花名がいるんだろう?)

その瞬間、純正は叫んだ。

「花名―! いるんだろ? 君を迎えに来た!!」

 お願いだ。出てきてくれ。君の可憐な笑顔をもう一度この目で見させてくれ。必死に純正は祈った。

それから少しして奥の方でドアの開く音が聞こえた。樹はドアから手を離すと踵を返す。