愛しい人

純正は桂とともに店を出た。

「近くに車を停めてあるんです」

 そう純正はいい、コインパーキングへ向かった。

桂を乗せエンジンをかけると逸る気持ちを抑えつつ車を発進させる。

「どこへ向かえば?」

「豊洲方面へ向かってください」

 桂に言われた通り純正はハンドルを切った。

運よく車はスムーズに流れており道は空いている。二十分ほどで目的地へと到着した。

「あそこのマンションです。あの角に駐車できるスペースがあります」

車を駐車スペースへ置き、エントランスへ向かうと桂に指示された通り少し離れたところで待った。

どうやら、樹は帰宅しているようだった。桂は至急サインが必要な祖類を持ってきたと告げる。

オートロックが解除された瞬間、滑り込むようにしてマンション内へ入った。

エレベーターにのり、樹の部屋のある階で降りた。純正はドアが開く反対側に立ち、桂はインターフォンを鳴らす。

するとカチャリと静かな音を立ててドアが開いた。

「俺のサインが必要な書類ってなに? 明日じゃダメなのかよ」

 樹は細く開かれたドアの隙間から不機嫌そうな声を出す。歓迎されていないのは明らかだった。