愛しい人


 桂は立ち上がろうとする純正の肩に手を置き静止した。

「待ってください。どこへ行くんですか?」

「それは……」

「樹の所ですか?」

純正は驚き目を見開く。

桂の口から樹の名前が出るとは思っていなかったのだ。

「意外でしたか? だって彼女に出張を命じれるのは樹だけですからね。現に、出張の申請は樹がしている……あなたの知っていることを教えてください。僕にできることがあれば協力しますから」

 純正はおととい花屋で樹と交わした会話の内容を含め、彼に疑いを持った理由を話して聞かせた。

肉親である桂が樹を庇うかもしれないと考えなくもなかったが、リスクよりもメリットの方が大きいように思えた。

「なるほど、そうでしたか。よくわかりました。しかも小石川さん連絡が取れなくなった日に樹が一緒にいた可能性があるんですね。確かにあの日樹はホテルで行われた結婚式に出席していました……でも本当に弟が小石川さんのことを……」

「信じられないのはわかります。僕だって信じたくない。でしたら彼の無実を証明するつもりで確かめていただけませんか? 彼のマンションに花名がいるのか、いないのか」

 純正の提案に桂は深く頷く。

「わかりました……」