愛しい人


「お恥ずかしい話、私が彼女を不安にさせるような行動をとってしまいまして。あえて連絡を無視されているのならまだいいのですが、家族にも連絡をしていないようなので心配になってしまって……」

 樹に事についてはあえて触れなかった。純正が彼に疑いを向けているという事実は知らない方がいいと思ったからだ。

「なるほど。それで会社に?」

「はい。現在出張中と聞いていますが……」

「出張中かぁ。確かに小石川さんのこと見かけないな……すみません、細かな業務のことまでは把握しきれていなくて。少しお待ちください」

 桂はカバンからノートパソコンを取り出すとなにやら調べ始めた。

「ああ、確かに。申請上は出張になってますが、変だな……」

 いいながら桂は眉間にしわを寄せる。

「なにが変なんですか?」

「期間も行き先も、宿泊先の情報も何も書いてないんですよ。普通は書かないといけないんですけどね。仕事なので。最終更新者は樹か……電話してみましょうか」

「お願いします」

「ああでも小石川さん、会社から電話の貸与はされていないようなので個人の携帯電話に掛けないといけないのか」

 桂は花名の携帯に電話をかけた。

しかし、やはりと言うべきか、全くつながらない。