「佐倉……とおっしゃいますと?」
「あー、はい。父が佐倉園芸の社長です」
「じゃあ、佐倉樹は……」
「弟です」
「お兄さん……ですか」
桂からが樹のような棘にも似た野心のようなものはみじんも感じられない。
しかし、兄弟と言われると目鼻立ちが似ているような気がする。
「小石川さんの事でしたよね? 弟が突然本社に異動させてしまって心配していましたけど頑張ってるみたいですね。彼女」
にこりと微笑まれ、緊張の糸がかすかに緩む。
「異動の話は私も聞いています。頑張り屋なんです、花名は」
「お付き合いされているんでしたよね?」
「はい。でも、……実はもう十日以上、連絡が取れていないんです」
どう伝えるのが正解か、純正は慎重に言葉を選ぶ。


