彼の後について大通りを渡り、路地裏にあるカフェへ入る。
店の中はこじんまりとしたバーのような造りだった。
壁の棚には色々な種類のコーヒーカップが並んでいる。
「ここ、コーヒーの専門店なんですよ。隠れ家的な感じで雰囲気もいいでしょ?」
「ええ。本当にいい店ですね」
「でしょう。とりあえず座りましょうか」
高いスツールが備え付けられたカウンターに二人並んで座った。
「なにを飲みますか?」
桂に聞かれ、純正は店の壁に掛けられた黒板のメニューを見た。
「ブレンドを」
「僕はダッチコーヒーにします」
注文が終わると純正は改めて桂を見た。
(いったいこの男は何者なのだろう……敵か味方かさえも不明確だ)
受付担当者と訪問者の間に割って入ることができるということはそれなりの立場の人間なのだろう。
「……僕、まだ自己紹介してませんでしたよね」
「そうですね。まだ伺っていませんでしたね」
「佐倉桂です」
佐倉と聞き純正は目を見開いた。
同じ苗字の社員、ということではないのだろうか。


