愛しい人


「あなたは? ……こちらの社員の方ですか?」

「ええ、一応。ご用件は?」

会話を遮るように受付の女性は男性の名前を呼んだ。

「あの、桂さん」

 桂がパッと視線を移すと小さく首を振り、必死で何かを訴えようとしている。

純正はすかさずそれを阻止した。

「すみません、至急小石川花名と連絡を取っていただけませんか?」

 桂は純正をじっと見て聞く。

「失礼ですがご関係は?」

 当然の反応だろう。純正はジャケットの内ポケットから名刺入れを取り出す。

「申し遅れました。私は深山記念病院で医師をしております、結城と申します。彼女の恋人です」

 桂は名刺をまじまじと見て、それからまた純正に視線を戻す。

「連絡を取りたいということですがみません、それはどういうことですか? 恋人なら直接電話をすれば良いじゃないですか」

「仰る通りです。でもそれが出来ないので困っているんです。取り合えず、お話を聞いていただけませんか?」

 桂は納得したように頷く。

「近くのカフェでもいいですか? ここじゃなんなので……」

「ありがとうございます」

 純正は桂と一緒に外に出ていく。