愛しい人



樹は襤褸を出した。しかし、全く気付いていない。

純正はほくそ笑んだ。

「なに笑ってるんですか、気持ち悪い。買わないならいい加減お引き取りいただけませんか。営業妨害で警察呼びますよ!」

 バン、とフラワーキーパーのガラス戸を叩いた。樹の言動に女性の店員は顔を強張らせている。

「警察は困りますね、失礼します」

 純正はそそくさと店を後にする。

これ以上刺激しない方がいいと思った。追い詰めて花名に危害を加えられても困る。

「さて、これからどうする……」

 探偵を雇えば住まいはすぐわかる。

しかしセキュリティー対策万全のマンションに住んでいた場合、部屋の中まで確認できるのだろうか。

しかも花名が同じマンションにいるとは限らない。

そうなると花名の居場所を特定するに至るまで、時間を要するだろう。

他に何か良い方法はないか。自ら動くしかないかもしれない。

だが、今の純正には自由になる時間が圧倒的に少ない。

(今すぐにでも探しに行きたいのに……さすがにオペまでキャンセルする訳にはいかないだろう)

純正は自分の不甲斐なさを悔やむかのようにキツく唇を噛んだ。