愛しい人



「小石川は出張中です」

 それは本当だろうか。

純正は信じることができなかった。仕事をするような、まして出張に行くような自由があるなら、自分か母親に何かしらの連絡をしてくるだろうから。

「……そうですか。では、彼女の上司を呼んでもらえませんか? 彼は確か、この会社の社長の息子さんだと伺っています」

「あ……の、どちらをお呼びすればよろしいですか?」

「どちらって?」

(息子が二人いるのか……)

「深山記念病院の近くに店があるでしょう? そこによく来ていた男性です」

「……マネージャーでしょうか。佐倉樹……」

 確かそんな名前だった気がする。

だが純正にはどうでもよかった。とにかく関係者に会って花名の情報を少しでも集められたらそれでよかった。

「その人をここに呼んでください。お願いします」

 すると受付の女性はパソコンの画面を見て「あ」と声を漏らす。

「申し訳ございません。佐倉はただいま社外に出ておりまして……」

 花名と一緒に出張へ行っているのかと思ったが違ったようだ。どこかホッとしながらも純正は「戻られますか?」と聞く。

「はい。おそらくは……」

「では、待たせていただいてもよろしいですか?」

 せっかくここまで来たのだからそう易々と帰るわけにはいかない。純正はロビーのソファーに腰を下ろした。