愛しい人


「着きましたよ、お客さん」

 花名のことを考えていたら、目的地に着いたことに気付かなかった。

窓の外を見ると外壁にツタを絡ませたスタイリッシュなビルの前でタクシーは停まっている。

「ああ……ありがとうございます」

純正はタクシー料金を支払うと車を降り、本社ビルのエントランスから建物の中に入る。

室内なのに木や草花が植えられていて、まるで植物園のようだ。

その間に無機質な机やいすが並べられている不思議な空間だった。

純正は受付へと向かった。

「すみません。小石川花名さんを呼んでいただけませんか? ここで働いているはずです」

「失礼ですが、お約束は?」

「ありません。私は結城と申します。彼女の知人です」

 名刺を差し出すと受付の女性は純正の顔をちらりと見た。

「少々お待ちください」

 いいながら内線電話をかける。だいぶ待たされてようやく回答が来たのか、電話が終わると少し申し訳なさそうな顔で答えた。