「いやだってさ、お前だけ幸せそうなのが気に入らなかったんだもん。でも俺なりに反省してるんだぜ?」
「そんなこと知るか。どうでもいい」
その調子のよさに純正は怒りを通り越して呆れてしまった。
「……そうだ晴紀。少しでも俺に謝罪する気持ちがあるなら午後の外来代わってくれ。行きたいところがあるんだ」
純正の要望に晴紀はあからさまに嫌な顔をする。
「はぁ? なんで俺なんだよ。午後は茉莉花のリハビリに付き合う約束しちゃったんだけど……まあ、いいか。あいつ、俺が側にいると仕事に行けってうるさいんだ」
「ハハハ。茉莉花らしいな」
もっと言ってやれ、と純正は思う。今の晴紀は茉莉花の言うことならなんでも聞きそうだ。
「気の強さは一生忘れててほしかったんだけどな」
茉莉花はこの一週間で目覚ましい回復を見せていた。肉体的な若さもあるが晴紀の献身的な介護が功を奏している。
茉莉花に必要とされ、晴紀はつねに機嫌がよく仕事の評判も上々だ。
愛に勝るものはない、と言うことだろう。
「というわけで、よろしくな。晴紀」
晴紀の肩を叩き、純正は病棟へ向かった。
夕方には戻ってこなければならないにしても、仕事をなるべく残さないようにしなければならない。
十四時過ぎ。純正は着替えて病院を出るとタクシーに乗り、佐倉園芸の本社へ向かう。


