愛しい人


「あ~、美味しい」

甘いシナモンロールは疲れた体に優しくしみわたっていく。少しビターなカフェラテが絶妙にマッチして、無限に食べられそうな気がする。

「小石川さんって、とても美味しそうに食べるんだね」

樹はまるでいとおしいものを見るように目を細める。

「そうですか?」

ガッツいていたところを見られていたなんて、恥ずかしい。頬が紅潮していくのを感じて、花名は俯く。

「そうやって照れるところもかわいい」

「かわいいだなんて、そんな。からかわないでください」

「別に、からかっている訳じゃないよ。いつも思ってる」

「……いつも?」

 驚いて顔をあげた。すると樹はまっすぐにこちらを見ている。

彼の真っ直ぐな瞳に、花名は息をつくのを忘れそうになった。それと同時に昨日の母親の言葉を思い出す。

――『もしかしたらその人、花ちゃんのことが好きなのかしら』