愛しい人


料理はとても美味しくて、ワインにもよく合った。酒も進み樹は機嫌よく仕事の話をしている。

「それでね、新しい企画が……」

「あの、樹さん。私は今日、仕事に行かなくてよかったんでしょうか?」

 新しい企画を決める会議があったならなおさら仕事に出たかった。それなのに樹は困ったように眉を寄せた。

「だからいいって言ったでしょ? ほんと真面目だね、小石川さんは。今日は有給で処理しておいたから大丈夫だよ」

「……分かりました。でも明日は出勤したいです。なので今夜、家に帰えろうと思います」

「ああ、ごめん。飲んじゃったから送っていけないな。明日にしたら?」

 もちろん送ってもらうつもりはなかった。

とにかくこれ以上樹の家にいるわけにはいかない。迷惑がかかるし、第一男性の家に何日も泊まるなんていいはずがない。

「大丈夫です、タクシーで帰ります」

「その格好でタクシーに乗るの? 下着付けてないんでしょ?」

「それは、そうですけど。乾燥が終わったら、それから……」

 テーブルに置いた手に突然樹の手が重ねられた。花名は驚いて手を引っ込める。と同時に肘がワイングラスにあたり床に落下した。