愛しい人



言いようのない不安に襲われた花名は気を紛らわそうとテレビをつけた。

丁度正午になるところだった。陽気な司会者が番組名を告げ、賑やかな音楽が流れた。

都内の人気スポットや最新ファッションの話など、次々と紹介されていく。目まぐるしく変わる内容になにも考えずに見ていられた。

ふと気付けば夕方のニュースに番組が切り替わっていた。

「いつになったら帰ってくるんだろう」

 樹が多忙なのは理解している。

毎日朝早くから夜遅くまで一生懸命働いている姿を間近で見ているからこそ、自分の都合で彼の邪魔をすることはためらわれた。

 樹が帰宅したのは夜の八時を過ぎた頃だった。

「遅くなってごめんね。打ち合わせが長引いちゃってさ」

 疲れた様子の樹は着ていたジャケットを脱いだ。花名は反射的に受け取る。

「そうだったんですね、お疲れ様でした」

「そうなんだ。だから小石川さんの服、買いに行けなかった。本当にごめんね」

 花名はがっくりと肩を落とす。服がなければ帰ることができない。

本当は今すぐにでも買いに行って欲しかった。しかし、樹の顔には疲労の色が浮かんでいる。