愛しい人


 ダイニングテーブルに座ると、樹は袋から中身を取り出した。

「カフェ・ラテとシナモンロール。好きでしょ?」

 店の近くのコーヒーショップで花名がよく食べていたものだ。樹はそれを覚えてたのだろう。

さらに水とバナナを持ってきてくれる。だが花名は手を伸ばさない。

「食べられる? 二日酔いとかしてない?」

樹は心配そうに花名の顔を覗き込んだ。

「大丈夫です。それより、仕事はどうすればいいですか?もう始業時間過ぎてますけど……」

「今日は有休取ればいいじゃない。たくさん余ってるでしょ?」

「でも……」

 有給はもしもの時のために取っておきたかった。

母親の病状は回復傾向にあるとはいえ、いつ看病が必要になるとも限らないのだから。

「真面目だな、小石川さんは。仕事したいなら僕のパソコン貸してあげる。取りあえず朝ごはん食べない?コーヒー冷めちゃうよ」

「はい、樹さんがそういうならいただきます」

 せっかく樹が買ってくれた朝食だ。無駄にするのも忍びない。

空腹は感じていなかったが、カフェラテとシナモンロールを口にする。

「……どう? 美味しい?」

花名がはいと答えると樹は満足そうな笑を浮かべる。彼女の本音が違っていると思わずに。