愛しい人


「おはよう。小石川さん」

「樹さん! あ。すみません、こんな格好で……」

 胸元を隠すように腕をクロスさせた。けれど樹はまるで気にする様子もない。

「大丈夫だよ。昨日の夜見ちゃったし。朝ごはん食べる?」

 樹の手にはコーヒーショップの紙袋が握られている。

「あの、私のワンピースはどこですか?」

「ああ、あれ? 君には似合わないと思って捨てたよ」

 花名は耳を疑った。

いくら樹でも許可を得ずに私物を捨てるなんて許せない。

「どうしてそんなことしたんですか? 酷いです!」

 花名は樹を睨んだ。

すると樹は「ごめん」と頭を下げる。

「あの男の事、思い出すと辛いかなって思ったんだよ。君のためにしたんだけど、いけなかった?」

 君のために、と言われてしまうと樹を責めることができなくなってしまった。

「……そう、だったんですか……大きな声を出してごめんなさい」 

「ううん、いいんだよ。服はあとで買ってあげる。スマホも買わないとね。取りあえずリビングへいこう、ほら」

「……はい」

 樹に促され花名はリビングへ足を向けた。