愛しい人


 程なくしてタクシーは捕まえることができたが、いくら鳴らしても花名は電話に出ない。

「お客さん、どちらへ向かいましょうか?」

 ハッとして前を見るとミラー越しの運転手はいぶかしげな顔で純正を見ていた。

「すみません、本町3丁目までお願いします」

 花名のアパートの住所を告げる。

彼女はもう帰宅しているはずだ。電話に出ないということは風呂にでも入っているのだろうか。

いや、デートの途中で帰ってしまったことを怒っているかもしれない。

それならばなおさら、日付が変わる前に直接会って詫びなければいけない。

アパートの少し手前で降り、コンビニに寄った。

食べ物で機嫌を取るつもりはないが、なにか花名の好きそうなものを手土産にできればと思いプリンと紅茶を買った。

けれど、いくらインターフォンを鳴らしても花名は出てこなかった。