愛しい人


「じゃあ、俺は帰るからな」

 純正は晴紀に背を向け病室のドアへと歩いていく。

「純正」

 ふいに呼ばれ、足を止めた。

「……サンキューな」

 振り返りはしなかった。軽く右手を上げ、「ああ、」とだけ言って病室を出た。

晴紀が礼を言うなんて奇跡だと思った。茉莉花が目覚めたことと同じくらいの。

 それから純正はナースステーションへ顔を出した。

「おつかれさま」

 看護師に声をかけると心配そうな顔で尋ねてくる。

「結城先生! 能瀬先生は?」

「今は寝ている。大丈夫そうだよ」

 よかった、と看護師は安堵の表情を浮かべた。彼女達も日々、茉莉花の回復を祈ってくれていた仲間だ。

「さっき深山先生が来てくれたから代わってもらった。僕はもう帰るよ」

「分かりました。おつかれさまです」

 急いで一階へ下り病院の外へ出た。

そしてすぐさま花名に電話をかける。

スマホを耳に押し当てて、タクシーが拾える通りまで走った。