愛しい人



 少しして突然ドアが開いたかと思うと大きな足音を立てて晴紀が病室へ入ってきた。

真っ赤な顔で肩で息をしている。

「茉莉花‼︎」

来たか。純正は安堵した。

「遅かったな」

「うるせえよ。それより、茉莉花は!?」

 晴紀は純正を押しのけて茉莉花の顔を覗き込み声をかける。

「茉莉花、俺だ。茉莉花……? おい、純正。本当に意識が戻ったのか?」

「嘘なんて吐くかよ。寝てるだけだ! さっきまで会話もできていたんだ。……ただ、俺のことは分からないようだったけど……」

 するとすぐ状況を理解したのか晴紀は悔しそうに下唇を噛んだ。

「逆行性健忘か……」

「だろうな」

「おいおい。よく冷静でいられるな? すぐMRIと脳波をやろう。純正、放射線科と生理検査に電話しろ! それと神経内科にコンサルト」

 焦る晴紀に純正は冷静に返す。

「気持ちはわかるが明日にしたらどうだ? 準夜帯で無理やりオーダーするほどの緊急性はないだろう。神経内科も迷惑だ」

夜間帯は技師の人数も限られている。

しかも、脳波は時間のかかる検査だ。MRIだって同様に。

それにわざわざ茉莉花を動かして負担をかけるべきではないと思った。