愛しい人

「ごめん、お母さん。バイト行くからもう帰るね」

「……花ちゃん。いってらっしゃい」

 振り返ることはできなかった。もしかしたら母親も自分と同じような悲しい顔をしているかもしれない。そんな顔を見たら、立ち直れそうもない。

(神様はどうして私に意地悪ばかりするんだろう)

大切な人を失うあの引きちぎられるような痛みは、もう二度と経験したくはなかった。

それなのに父に続いて母までも神様は奪おうとしている。

花名は考えた。どうしたら母を救うことが出来るのか。

進むべき道はひとつしかないのだろう。

大津の言っていたセカンドピニオンを受けてみよう。

そうと決まればすぐにでも行動したほうがいい。明日は日曜日で店が混む。だからパートのスタッフがヘルプに入るはずだ。けれど、夕方以降はその忙しさも下火になるはずだ。

無理を言えば早退させてもらうことは可能だろう。その足で大津に話しをしに行こう。

もちろん母には内緒だ。

全ての段取りが終わるまで、黙っていた方がいい。