愛しい人

茉莉花は純正をずっと先生と呼んでいる。

「なあ、茉莉花? 俺のことわかる?」

「……先生ですよね、白衣……着てるし」

(逆行性健忘か?……)

脳へのダメージが大きかったので記憶障害がおこることは想定していた。

とはいえ、この事実は思った以上にショックだった。

それよりも茉莉花のこれからのことを考えると胸が痛んだ。

「あのぉ、違ってました?」

「いえ、そうですよ。僕は医者です。ああでも、あなたの主治医ではないですが」
 
 純正は茉莉花に合わせるように話し方をかえた。

今ここで自分との関係を説明しても彼女を混乱させるだけだろう。

「そうなんですね」

 いいながら茉莉花はゆっくりと目を瞑った。