愛しい人


「そうなの? でも、いい方なんでしょう? 花ちゃんはどう思っているの?」

「いい人よ。仕事もできるし、とても素敵な人」

「そんな人がお婿さんになってくれたらいいのに。そうしたらとっても安心だわ」

「お母さんは私が結婚したら安心なの?」

「そうね。安心してお父さんとところへ行ける」

「なんでそんなこと言うの!……いやよ、私はまだまだお母さんに心配してて欲しい。だからひとりにしないで……」

 花名は自分の声が震えているのに気づいた。これ以上ここにいたら泣きだしてしまうかもしれない。それだけは避けたかった。

無造作にバッグを手に取ると、母に背を向けた。