聞きなれた声に振りかえると、そこにいたのは樹だった。
「樹さん!」
樹は上質なスーツに身を包み、ホテルの名前が入った紙袋を持っている。それを見て花名はピンときた。
「結婚式ですか?」
「そうだよ、取引先関係の人のね。それより、さっき一緒にいた人って、深山記念病院の医者だよね」
険しい表情でそう聞かれ、花名は困惑しながらも答える。
「そうです。純正さんの事、ご存じなんですか?」
「純正さんね。君とはどういう関係? エレベータの中でキスしていたように見えたけど」
職場の、しかも上司に恋人と一緒にいるところを見られてしまったなんて。
恥ずかしさに顔から火が出そうだったが、いまさら誤魔化しても仕方がないだろうと純正との関係を正直に伝えた。
「実は、お付き合いさせていただいてるんです」
「お付き合い? ちょっと待って小石川さん、僕の勘違いでなければ店でトラブった客ってあの人だよね」
樹には純正のことは一切伝えていない。それなのになぜ、こんなことを言うのだろう。
「あの人は、その……」
「答えたくないなら答えなくてもいいよ。言っとくけどあの医者、ほかに女がいるよ」
「――え? どういうことですか」
趣味の悪い冗談だろう。そう思い聞き返す。けれど、樹の口からは真実としか思えない事柄が語られていく。
「樹さん!」
樹は上質なスーツに身を包み、ホテルの名前が入った紙袋を持っている。それを見て花名はピンときた。
「結婚式ですか?」
「そうだよ、取引先関係の人のね。それより、さっき一緒にいた人って、深山記念病院の医者だよね」
険しい表情でそう聞かれ、花名は困惑しながらも答える。
「そうです。純正さんの事、ご存じなんですか?」
「純正さんね。君とはどういう関係? エレベータの中でキスしていたように見えたけど」
職場の、しかも上司に恋人と一緒にいるところを見られてしまったなんて。
恥ずかしさに顔から火が出そうだったが、いまさら誤魔化しても仕方がないだろうと純正との関係を正直に伝えた。
「実は、お付き合いさせていただいてるんです」
「お付き合い? ちょっと待って小石川さん、僕の勘違いでなければ店でトラブった客ってあの人だよね」
樹には純正のことは一切伝えていない。それなのになぜ、こんなことを言うのだろう。
「あの人は、その……」
「答えたくないなら答えなくてもいいよ。言っとくけどあの医者、ほかに女がいるよ」
「――え? どういうことですか」
趣味の悪い冗談だろう。そう思い聞き返す。けれど、樹の口からは真実としか思えない事柄が語られていく。


