「すごくおいしかったですね、お料理」
「うん、そうだね。さあ、行こうか」
店を出てエレベーターに乗り込むと、まるで待っていたかのように純正の携帯電話が鳴りだした。
「ごめん、病院からだ。でてもいい?」
「もちろんです」
「はい。結城です……え、本当に? わかったすぐに向かいます」
電話を切った純正は申し訳なさそうな顔をして花名に頭を下げた。
「ごめん、花名。病院に戻らないといけなくなった。いいかな?」
ダメだなどという権利は自分にはない。それに、純正は仕事柄急に呼び出されることがあることくらい理解している。だから花名は笑顔で「早くいってあげて下さい」といった。
「ありがとう、花名。本当はもっと一緒にいたかった」
「いいんですよ、お仕事ですもん。私は大丈夫ですよ」
エレベーターの扉が開くと純正は花名の額にそっとキスをして駆け出した。
「……家に帰らなきゃ」
急に一人になって、どこか置き去りにされた気持ちがわいた。言葉とは裏腹な自分の気持ちの変化に戸惑わずにはいられない。
「ここからだと、何線に乗ればいいんだろう……調べないと分からないわ」
ロビーのソファーに腰を下ろしてスマホを取り出す。そんな花名の肩を、誰かが叩いた。
「小石川さん」


