愛しい人


 水族館を出ると、近くのホテルにあるラウンジでお茶を飲んだ。

「このあと、上のレストランでディナーの予約をしているんだ」

「そうなんですか? それならもう少しおしゃれをしてくればよかったです」

 スーツを着ている純正は、そのままで問題ないだろう。でも自分は……。

ファストファッションブランドのワンピースと普段使いのパンプス。高級感はまるでない。

「このままで十分かわいいよ。でももし、花名が気になるなら着替える?」

「着替えですか?」

「そう。まだ予約の時間まですこしあるし、行こう」

 純正は花名の手を取ると立ち上がった。

一度ホテルを出て、タクシーに乗りファッションブランドの路面店の前で降りる。

「ここですか?」

 花名は思わずしり込みした。誰もが知る有名ブランドで、小さな小物でさえも数万円はする店だ。

「そうだよ、入ろう」

 純正は花名の背中をそっと押す。

「ごめんなさい。私、今日は持ち合わせがなくて」

 今日だけじゃなく、今後もこの店で買い物をすることはないだろう。

「そこは気にしないで。初デートの記念に俺からプレゼントするよ」

「そんなプレゼントなんていただけません」

「いいから」

 半ば強引に店の中に連れて行かれ、女性店員に勧められるままフィッティングをする。