愛しい人

ほどなくしてエレベーターは一階に到着した。

扉が開くと大勢の人が待っていて、これ以上晴紀を問い詰めることはできない。

「では失礼」

 晴紀はそういうとスタッフオンリーと書かれた扉の奥へと行ってしまった。

(いったい何が言いたかったの?)

花名はもやもやとした気持ちを胸に抱えて待ち合わせ場所へと向う。

入口の自動ドアを出ると、すぐそこにスーツ姿の純正を見つけた。

「花名!」

 微笑みながら手を振る純正の姿を見た瞬間、晴紀の言葉などどうでもいいと思えた。

おそらくくだらない嫉妬から純正のことを貶めたかったのだろう。そう思えば合点がいく。

(だってこんな素敵な人が悪い男のはずがないじゃない)

花名は心の中でそうつぶやいて純正のもとへと駆け寄った。

「お待たせしてすみません」

「ぜんぜん。今来たところ。さあ、行こうか」 

 二人でタクシーに乗り込むと、純正は運転手へ行き先を告げた。

「水族館ですか?」

「ああそうだ。だめか?」

 少し不安増な顔で純正は聞いた。

「いえ、なんだかデートみたいだなと思って」

 花名がそういうと、純正はクスリと笑って指で花名のおでこをツンと押した。

「おい、これは正真正銘のデートだろ? 俺と花名の初デート。約束したろ?」

「覚えてたんですね?」

「当たり前だよ。ちゃんとスーツも着てきたし」

「気づいてました。すごくかっこいいです」

「そう言ってくれるのは花名だけだ。今朝、同僚たちに変な目で見られたし、だからこの格好はこれっきりだぞ」

 そう言って照れる純正をみて、とても花名は満ち足りた気持ちになれた。