静かにドアを閉め、腕時計で時間を確かめる。
「ああでもまだ二十分もある」
純正との待ち合わせは病院の入り口に十五時。
午前中は外来診療があり、そのあと病棟の仕事をしてから上がると言っていた。ナースステーションを覗いてみたが、純正の姿はなかった。
(もしかしたらもう仕事を終えたのかもしれないわ)
花名は踵を返してエレベーターに向かう。
降りる方のボタンを押し、到着したエレベーターに乗り込むと扉が閉まるぎりぎりで誰かが滑り込んでくる。花名は目を疑った。
乗り込んできたのが晴紀だったからだ。
メールを無視していた手前、気まずくて顔があげられない。
気付かないでほしいと祈っては見たけれど、あいにく乗っているのは二人だけ。叶うはずもなかった。
「やあ、どうも。お母さんのお見舞い?」
「はい」
「優しいんだね。でも僕には冷たいよね。メールの返事、どうしてくれないの?」
「……ごめんなさい」
「謝らなくてもいいんだよ。僕に魅力がないってことだもんね」
晴紀の言葉に花名は首を横に振って否定した。
「そんなことありません」
「そんなことあるよ。純正みたいに“悪い男”の方がモテるってことだもんな、ほんと怖い世の中だよ」
「……悪い男? それってどういう意味ですか?」
晴紀の言葉に引っかかりを覚えて聞き返してみたが、晴紀は「そんな事僕の口からは言えないよ」といいながらわざとらしく口もとを手で覆って答えるつもりはないようだ。


