純正との一件以来、彼からのメールをすべて削除していた。もちろん、晴紀はなにも悪くない。
アドバイス通りに実践したのは自分だ。
だからといって約束通りにお茶をする気持ちにはとてもなれなかった。
「ねえ、お母さん。深山先生はよく顔を出してくださるの?」
「ええ、そうよ。結城先生よりもよくしてくれるわ」
「そんなはずない!」
つい、大きな声になってしまい花名はあわてて口元を手で押さえた。
雅恵も花名の声に驚いた様子で目を見開いている。
「どうしたの、花ちゃん」
「……ごめんなさいお母さん。結城先生は主治医なのよ、だからあまりそういうこと言わない方がいいと思うの。先生だっていい気持ちはしないから」
「そうね。気を付けるわ」
しゅんとした雅恵を見て、花名は自分の言葉を反省した。
けれど、どんなに雅恵が晴紀を気に入っても、雅恵の治療とその費用の負担をしているのは純正なのだ。
「また来週からお薬の治療が始まるのよね?」
「そうね」
「あ、そうだこれ」
花名はバッグから小さな包みを出した。
「なあに?」
「ハーバリウムっていうの。治療の関係で、生花は飾れないでしょ、だから」
そうアドバイスをくれたのは純正だった。これならお母様の病室に置いてもいいねと言ってくれた。
「まあ、花ちゃんが作ったの?」
「そうよ。お母さんが元気になりますようにって、願いを込めたの」
雅恵の好きな桜の花をふんだんに使い、底には星の砂を敷き詰めた。
テーブルの上に置くと、日の光を取り込んでさらに輝きを増す。
「すごくきれいね。ありがとうね、花ちゃん。本当にありがとう」
雅恵の笑顔を見て花名はホッと胸をなでおろす。
「じゃあ、また来るわね」
「ええ、また」
花名は笑顔で手を振ると病室を出た。


