愛しい人


 洗濯物を畳み終えた花名は母親の病室へと戻った。

「おかえりなさい。だいぶかかったのね、洗濯」

「うん、ランドリー混んでて……」

 花名はそう言いながら、母の洗濯物を床頭台の引き出しにしまった。そして、樹から渡された見舞金をバックから取り出す。

「それとこれ、会社の人から頂いたの」

「あら、お見舞い?」

 花名から受け取ると、包にかかれた名前をじっと見た。

「……佐倉さんって、以前もお見舞いを下さった方でしょう?」

「うん、そう。頂てばかりじゃ申し訳ないからお断りしたんだけど、どうしても受け取って欲しいっておっしゃるの」

「ありがたいわ。お気持ちは素直に頂戴しましょう。もしかしたらその人、花ちゃんのことが好きなのかもしれないわね」

「まさか! マネージャーが私のことを好きだなんて、あり得ないよ」

 花名は母の言葉をすぐさま否定した。

樹は花名の家庭の事情を知っていて、気にかけてくれているのかもしれないけれど、自分にだけ特別ということはないはずだ。

ましてや平社員の自分のことを好きなんてなるはずがない。

樹は社員の誰にでも優しい。そんな彼の態度に勘違いする女性の社員もいると聞く。

だから樹の優しさをイコール好意ととらえては駄目なのだ。