愛しい人

 今回の異動の原因を作ったのは花名自身だ。

顔を合わせたくないからといって純正を悪者にした。さらには樹を巻き込み、また彼にも迷惑をかけた。

それを思うと彼の”店に戻ってほしい”という気持ちを受け止める資格はないと思った。

「熱っ!」

 考え事をしていたせいで、ケトルに触れてしまった。慌てて指を引っ込める。

「大丈夫か、花名!」

 驚いた純正は立ち上がり花名のもとへと駆け寄った。

「平気です。少し触れただけなので、何ともありません」

「本当に? 見せてごらん」

 おずおずと手を差し出すと、純正は、まるで繊細な何かを扱うように花名の手をくまなく調べる。

「念のため冷やした方がいいな。ここ、赤くなってるだろう」

 いいながら水道の蛇口をひねり、花名の手を水に当てた。

「少しこのままでいるように。お湯は俺がやるよ」

「ありがとうございます」

 純正はケトルを手にとると、テーブルの上に置いたティーポットにお湯を注いだ。