「ここに住む?」
「ああ、そうだよ。ここに住めば契約のためにわざわざ通わなくてもよくなるし、一緒にいられる時間も増える。嫌か?」
「いやではないですけど……」
あの時言ってくれたではないか。ゆっくりと距離を縮めていこう。普通の恋人同士のように、デートを重ねることから始めようと。
そんな純正の言葉に花名は安心できたし、より好きになれると思った。だからいきなり同棲しようと言われても、戸惑いしかなかった。
「私たち、お付き合いを始めたばかりですし、一緒に住むのはまだ、早いと思います」
純正の気を悪くしないようにと、言葉を選ぶ。
「……了解。花名がそういうなら無理強いはしないよ」
ほんの少しだけ残念そうな表情を見せはしたが、無理強いするようなことはしなかった。花名はホッと胸をなでおろす。
「分かっていただけて、よかったです」
「そりゃそうだよ。花名のことは大事にしたいと思ってるんだからな。で、今夜はどうする?」
そう聞かれて花名は迷った。このまま一緒にいたい気持ちはあるし、同棲するのも今夜このマンションに泊まるのも断る――というのは純正の面子をつぶすことにならないかと考える。
しかし、今日はとても疲れており、さらに明日の朝のことを考えるとこのまま帰りたい気持ちが勝ってしまった。
「泊っていきたい気持ちはあるんですが、今夜は帰ります」
「ごめんなさい」と頭を下げた。すると純正はふぅと息を吐いて、花名の髪をくしゃくしゃになでた。
「……そうかー、わかったよ。疲れてるもんな花名も。じゃあ、送ってくよ。それくらいいいだろ?」
「ありがとうございます」
「じゃあ、行こうか」
純正は玄関に置いてある車のキーを手に取った。


