愛しい人



 会食が終わると花名は樹に乗せてもらったタクシーで純正のマンションへと向かった。

(遅くなっちゃったけど連絡もできなかったし、純正さん怒ってるだろうな)

花名は車窓から流れる街の光を見つめながら心の中で呟く。

合間を見て純正に会食で遅くなると連絡するつもりだったが、スマホの充電が切れてしまっていた。

普段は夜に充電器に繋いで一日持つのだけれど、昨日は深夜に帰宅してそのまま寝てしまったから充電していなかったのだ。

時計は二十二時を指している。

(とにかく急がなきゃ)

花名はタクシーを降りるとマンションのエントランスに駆け込んだ。

エレベーターが上昇するのもやけに長く感じた。純正の部屋のあるフロアーに着き急ぎ足で玄関のドアを開ける。

すると目の前には純正の姿があった。

「純正さん、ごめんなさい」

 怒鳴られるかもしれないと思い身を竦ませた。

しかし純正は裸足で玄関のタイルに降りて花名を抱きしめる。