愛しい人


「……そんなひどかったんですか。どうにか助かる方法はありませんか?」

「ありません。というのが私の見解です。ご納得していただけないのも分かります。もしよろしければ、セカンドオピニオンを受けてみたらいかがでしょう?」

「セカンドオピニオン?」

 初めて聞く言葉だった。そんな花名に大津は丁寧に説明を加える。

「はい。ザックリと言えば、私以外の医師に見解を聞くことです。こちらでの検査データはお貸しします。それを持って、お母さんの治療法が他にないかを聞いてください」

「どちらの病院へ行けばいいのでしょうか?」

「お勧めするのは深山記念病院でしょうか」

「深山記念」

「ええ、あそこには私の先輩にあたる優秀な外科医がおります。もしかしたら新たな治療法を提案されるかもしれません。そうなれば転院していただくことも出来ますよ」

 深山記念病院はいわゆるセレブ病院として名高い。全室個室で部屋代は自費扱いとなるため、治療費を含めるとひと月百万円はくだらない。

売りは高級ホテルにも引けを取らない設備とホスピタリティー。日本全国から集められた優秀な人材。政財界の人間や芸能人が好んで治療を受けに来ている。

その病院の隣で働いている花名はよく知っていた。

「まあ、考えておいてください。お母様ともよく話し合っていただいて」

「はい。分かりました」

「もし、セカンドオピニオンを受けたいのなら、平日の十七時くらいまでに僕のところに来てくださればお話しできると思います」

「ありがとうございました」

 花名は大津に頭を下げるとカンファレンスルームを出た。

その足でランドリーに向かうと乾燥まで終えた洗濯物を取り出して、狭いスペースで母親の下着を畳んだ。

父に続いて母まで失ったら自分はひとりになってしまう。そう考えると涙を止めることが出来ない。