愛しい人

「どうかした、小石川さん」

 花名が振り返るとそこに、樹がいた。

「あ、樹さん。ミーティング終わったんですね」

「うん、終わったよ」

「お疲れさまです」と笑顔を向けるがなんだか浮かない顔をする。

「……そういえばここに、桂きてなかった?」

 樹にそう聞かれて正直に答えるべきか花名は迷った。もし来たと答えれば、話の内容も問いただされたりはしないだろうか。二人はライバル関係で、お互いを牽制し合っていると聞く。

「いえ……」

 思わず嘘をついた。心がちくりと痛んだが、樹がホッとしたような顔をしたのでこれでよかったのだと思うことにした。

「そう。ならいいんだ。小石川さんの作業が終わったら、今日はスクールの方を案内するよ。焦らなくていいから、ゆっくりやってね」

 樹は隣に座るとパソコンを開く。

側にいられると、なんとなく落ち着かない。そう思いながらも花名は一生懸命に作業を進めた。