愛しい人

 オフィスに到着し、デスクでパソコンを開く。資料をめくりながら昨日終わらなかった店のまとめ資料を作り始めた。

「おはよう、小石川さん。ずいぶん早いんだね」

「樹さん。おはようございます」

 樹はにこりと微笑むと、花名の隣に座った。

「樹さんこそ、いつもこんな時間に出社されているんですか?」

 時刻は七時半。出社している社員もちらほらいるが、樹のような立場の人間の出社時は遅いものだと思っていた。

「うん、そうだよ。生花市場は四時頃から開くから、配送のトラブルがあれば対応しなくちゃならないし、欠勤の連絡があれば人の配置も考えなきゃいけない」

「それを全部樹さんが?」

 花名は驚いた。確かに自分になにかあった時、すぐにフォローしてくれていたけれどこれを毎日こなすのは並大抵のことではない。

「全部ではないよ。僕がいなくてもそれぞれの部門がきちんと動いてくれるから問題はないんだけど、把握しておきたい性分なんでね」

「樹さんらしいですね」

 彼は経営者の息子としての役目を十二分にになっていると言えるだろう。

「小石川さんもね。今日は早朝出勤で、昨日も残業してたんでしょ?」

「どうしてそれを?」

「自宅でパソコンを開いたら、小石川さんがログインしていたからさ」

「そんなことがわかっちゃうんですか?」

 意図せず残業していたことを知られてしまうなんて、なんだかバツが悪い。

「ごめん、説明してなかったね。うちの会社が使用しているグループウエアは設定しないとログイン状態が表示されるんだ」

樹はグループウエアの使い方について花名に説明をすると、役員ミーティングのため会議室へと行ってしまった。