愛しい人

 翌朝、スマホのアラームが容赦なく花名をたたき起こす。

「もう朝?」 

 まだ眠っていたかった。けれど、早朝出勤することは自分で決めたことだ。重い体を起こすと、シャワーを浴びて身支度を整える。

「行かなきゃ」

本社勤務になって、通勤時間は三十分ほど伸びてしまった。約一時間の通勤はこういう朝にはキツイ。

小走りで駅に向かい電車に飛び乗ると、思った以上に混んでいて座ることはできなかった。履きなれていないパンプスのせいでもうすでに足が痛む。

「まだ六時なのに、いつもこうなのかしら」

 吊革につかまって独り言ちる。

ようやく座ることができたのは、降りる駅の三つ手前だった。

座席に座ると横揺れが心地よく、十分に満たない時間をついうとうととしていたが、あっという間に会社の最寄り駅に付き、花名は慌てて飛び降りた。