愛しい人

 樹が担当しているのは、駅の構内にある小さな店を含めると、二十店舗。店長がいる大型店よりも、花名がいたような小さな店舗の方がより管理が難しい――というのは、この立場になってはじめて気づいたことだった。

今の自分にできることといえばなんだろうと考えた時に、たいそうなことができるはずもなく、それぞれの店のことを知ることから始めようと考えたのだ。

とにかく、樹の足手まといにだけはなりたくなかったし、ほんの少しでも役に立ちたかった。
花名は時計を見た。終電までは約二時間だ。

「さてと、頑張るぞ」

 花名は資料をめくりながら店の特色と、ここ数年の売り上げや今年の目標などを表にまとめていく。

慣れないパソコン作業は思った以上に時間がかかってしまった。気が付けば予定していたに時間が過ぎようとしている。

「帰らなきゃ……終わらなかった残りは明日早めに出社してやることにしよう」

 花名はファイルを保存してパソコンを閉じて会社を出た。家に着くととてつもない疲労感に襲われて、ベッドに倒れ込むとそのまま眠ってしまった。