愛しい人

 朝食を食べ終えると純正は仕事へ行く準備を始めた。

細身の黒いパンツに白いシャツ。とてもシンプルだけれど、着ている人間がいいとお洒落に見えるものなのかもしれない。

皿を洗いながら目で追っていた。するとそれに気づいた純正が言う。

「なにみてるの?」

「かっこいいなと思ったからつい」

「うれしいこと言ってくれるね」

「スーツは着ないんですか?」

「そうだね、なにか特別なことがない限りスーツは着ないかな。職場で着替えるし、服は割と適当だよ。花名はスーツが好き?」

「いえ、そういうわけでは……」

 男性の出勤=スーツのイメージがあるからそう言っただけで深い意味はない。ただ、純正のスーツ姿は素敵だろうと思った。

「じゃあ今度、スーツでデートしよう」

 純正の提案に花名は笑顔で頷いた。

「じゃあ、いこうか」

「はい」

二人でマンションを出て、病院まで向かった。店の前で純正と別れ、花名は店舗の裏口に回る。

花名が突然休んだ穴埋めをバイトのスタッフではなく、樹がしていると同僚からメールが来たのは昨日のことだった。

早く復帰しなければと思っていたところで、純正と和解することができて本当に良かったと思う。