愛しい人

 ついうとうととしてしまったようだった。

ふと目を醒ますと純正は隣にいなかった。ベッドから跳ね起き、リビングへ出た。

するとキッチンに純正の姿があった。すこしほっとして、カウンター越しに声をかける。

「ごめんなさい、寝過ごしました。すぐ朝食の準備をしますね」

 すると冷蔵庫の中を覗いていた純正は卵を手にこちらを振り返る。

「いいからすわってて。俺が作るよ」

「そんなことさせられません」

 花名はあわててキッチンのカウンターの方へと駆け寄った。

「純正さんが座っててください」

 はい。と手を出して卵を受け取ろうとする。けれど純正は渡してはくれなかった。

「どうして? 彼氏が彼女に朝食を作ったらダメ?」

「え?あ、彼氏?」

「俺は花名の彼氏だよな?」

「そうです。彼氏です」

 純正は人生で初めてできた“彼氏”だ。言葉にすると気恥ずかしくて、顔が赤く染まってしまう。

「だったら問題ないだろ。それとも、俺の料理は食べたくない?」

「そんなことありません。食べたい、です」

「じゃあ、シャワー、浴びておいで。作っておくから」

「はい。お言葉に甘えます」

 花名はバスルームに向かうと、手短にシャワーを済ませた。本当は髪も洗いたかったのだけれど、ドライヤーをかけたら時間がかかってしまいそうだったから。