愛しい人

「あ、母の主治医の……」

「そうですそうです、お母さまの主治医の大津です。覚えてくれてましたか」

「はい。ご無沙汰しています」

「ほんと、久しぶりですね。でもよかった、やっとお会いできた」

「やっと?」

 言われている意味が分からずに、花名は小首を傾げた。すると大津は怪訝そうな顔をして話を続ける。

 「ええ、何度もお呼びしましたよね。でも、お仕事がお忙しいとかで病状説明の席に同席していただけなかったんじゃないですか」

大津の言葉に花名は更に首を傾げる。

「いつ、呼ばれたんでしょうか?」

「どういうことですか? お母様から何も?」

「……ええ」

 花名がそう答えると、大津は少し考えるそぶりをした。

「ちょっといいですか。ここじゃなんなんで、場所を移りましょう」

 大津は花名を立ち上がらせて歩き出す。向かった先はカンファレンスルームだった。