時代は一気に翻り、弥生時代。そこで、一人の神が涙を流していた。彼女はイザナミ。ちょうど、神の子を産み落とそうとしているところだった。子を孕み、産み落とすのは、女性の特権ともとれる行いだが、霊夢にはまだ早かったのか、目を瞑って頬が赤くなってしまった。数時間後、やっとの思いで子を産み落としたイザナミだが、その影響か子宮を損傷し、絶命してしまった。その際、地面に滴り落ちていたイザナミの粘液が、スライムのように動き、その場から消えた。ミツハノメノカミの誕生である。それから、その神は堕ちる所以上に堕ちていくのを、この時しらなかった。
 生まれたばかりで、そこらの石ころと何ら変わりの無い大きさで、神力もない。信仰もないから、腹が満たされない。とにかく前に進んでいった。すると、川に辿り着いた。力の持たない小さな神にはとても大きな川だ。しかし彼は、躊躇せず川に飛び込んだ。すると、川の水位がみるみる減って、最後には全ての水が無くなった。代わりに、ミツハノメノカミが人間の平均身長の倍位の身長になった。また、水と言えど、ずっと異形では信仰も得られないので、水を自在に操り、人の形を為し、服も全て水で形成した。
「すご……。こんなことできるやつ見たことないな」
 数年後、彼への信仰は多大なものとなった。日本全体の雨の管理をし、水分の足りない土地には、自分の水を分け与えてあげたりしていた。また、その時から諏訪の御謝宮治、幻想郷の洩矢諏訪子と友達だった。2人は、共に寺社を造り、諏訪の村の統治と、土地の潤いを与えた。が、それが悪い方向へ向かう第一歩となった。
 あれから約10年の月日が経ち、2人は諏訪の村人からの供え物で宴を交わしていた。その時、村の方から響めいているのを聞き、2人は急いで山を下り、村へと向かった。するとそこには、諏訪の村人ではない。他の村人が、諏訪の村人達を襲っていた。男達は惨殺され、女子供は逃げ込んだ家に火をつけられ焼死、とてもむごい光景だった。ミツハノメノカミは、遅かれど村全体に水をぶっ掛け、火を消した。が、全村人が焼け焦げ、見る影もない。また、他の村人が、次はこちらに目掛けて襲い掛かってきた。2人は、一撃をかわして洪水を起こし、距離を取った。今まで信仰を与えてくれた人間からの謀反。さながら、裏切り者を晒し首にして惨刑に処す。そんな感じだ。2人は、難なく寺社に逃げ込めたが、村人は死に、信仰は無くなった。これ以上の長居は無用だと、御謝宮治は去った。が、ミツハノメノカミは去らなかった。いや、去れなかった。彼は、最初に吸い尽くした川の水分の蓄えしかなく、今はもう3分の2を出し尽くした。身体も維持できず、またスライムのようになってしまった。それから、人間からは堕ち神、堕落神等と罵られ、唯一親友であった御謝宮治にも捨てられ、ミツハノメノカミは独り、諏訪の水神社で朽ち果てた。
「…………」
 それから、長い年を経て、目が覚めた。しかし、実体が無く魂しか無かった。どうしようものか途方に暮れていると、一人の少女が寺社の中に走って入ってきた。こんな朽ち果てた寺社に慌てて入るとは、よっぽどのことがあったのだろう。ミツハノメノカミは遠くから見つめていた。彼女はとても震えていて、何かに怯えているようだ。私が行っても逆効果だし、様子を見ていた。すると、寺社の入口から、小生意気そうな男が3人やってきた。感情を探ってみれば、少女を性の捌け口にしようとしている。何とも、嘆かわしい奴らだ。自分がモテないからとイジメられている少女で済まそうという精神。許せぬものだ。どれ、1つ助けてやろう。
「見つけたぜ、----」
「大人しくしてろっ!」
「いやっ!やだっ!」
「こらっ…!暴れんなって!」
「お前らぁ……こんなとこで何やってんだぁ……?」
 3人の男達は手を止めた。
「おい、今の誰だ?」
「俺じゃねーよ、第一ここ廃屋だぞ?」
「でも、なんかすごい声してたよね…」
「いい加減気付かないか、バカ者。私は目の前にいるぞ?」
「へ?」
 3人が振り返り、正面を見ると、淡い炎で語りかける魂が目に入った。
「お前らぁ…よってたかって1人の少女を狙うたぁ許せん。その命、死んで詫びろ!」
「「「ひぃぃぃぃぃぃ!!すいませんでしたぁぁぁぁぁ!!」」」
 3人は一目散に逃げ、寺社には少女とミツハノメノカミの魂だけが残った。
「さて、大丈夫か?」
「やだっ!来ないで!」
 感謝ではなく、罵倒をされた。助けて上げたというのに、何ということか。ミツハノメノカミは怒ってしまった。
「またお前ら人間は私を愚弄するのか!それならもうよい!お前を依り代に、この世界を滅ぼす!」
「いやぁっ!………ぁ………」
 ミツハノメノカミの魂は、少女の胸の中に入り、身体を乗っ取った。その後すぐ、青蛾が現れ、ミツハノメノカミの魂が入った少女を連れ去っていった。
 霊夢は、全てが分かった。第3世代の神が、影の正体が、彼女の抱える闇が。すると、周りが光りに包まれ、霊夢の意識が遠のいた。