雨那はスペカを取り出し、祓い棒を構えた。霊夢も同じく、スペカを取り出し、祓い棒の代わりに鬼針を手にした。しかし、そこから2人は一切動かない。雨那は、力は無いが、思考を巡らせて活路を辿る策士型。霊夢との違いは力の差だけを考えると差は歴然だ。だから、どう攻めればこの強敵に勝てるか、如何にして翻弄することが出来るか、思考を巡らせていた。それは霊夢も同じ。最初見たときは、チルノのような妖精でも勝てるようなとても弱い少女だった。だが、挑発を霊夢に向けて言ってきたとき、力が一気に増幅して、そこらの強い妖怪に匹敵する程にまで強くなっていた。底が知れない力には侮ってはいけない。地底の八咫烏を思い出す。バカだけど、かなりの力を発揮する難敵だった。もしかすると、この少女も同じ難敵かもしれない、と。
 2人が睨み合う中、青蛾はとある準備をしていた。青蛾の算段では、雨那は確実に負ける。その時の為の秘策を用意し始めた。そんなことも気付かず、ただ2人の闘いを眺める早苗は、いつの間にか解けている結界に目も暮れず、徐々に体力を奪われていることに気付かず傍観していた。
「霊夢さん…。私は、あなたに憧れていました」
「…………」
「この世界に来て、青蛾が怨敵という博麗の巫女がどういう人物か、雨を通して情報収集をしていました。私としては、とても怨敵とは思っていません。むしろ、逆。今まで数々の異変を解決してきた英雄と謳われていて、人里からかなり感謝されていました。私もこの能力を通じて、人の役に立てたいって思って青蛾に協力しました。結果…このような形ですが。霊夢さんから見て、私はどう思いますか?」
「…………バカね」
「…………」
「あなたがどういう考えで今回の異変を起こしたか分かったわ。でも、限度があるんじゃないかしら?影を創ったり、人々の感情を暗く陥れたり」
「………え?私、そこまでのことはしてないよ……?」
「惚けたって無駄よ。私は実際に影と闘い、全ての人々が憂鬱になっているのも見てきたわ」
「えっ……。私、青蛾に雨を降らせるだけでいいって……」
「まさか……。青蛾!」
 準備に勤しんでいた青蛾が突然話を振られて驚いた。すぐに、平常心を持って、霊夢を見下した。
「えぇ、そうよ。雨那には雨を降らせるだけでいいって言ったわ。そこから私の邪心を雲に染み込ませて、下に住まう人間達を沈黙させ、妖怪や妖精にはプロトタイプとなる影を創るよう仕向けたわ」
「くっ……」
「青蛾……」
「大丈夫よ。雨那。あなたは悪くないわ。私の計画に協力してくれただけでも、とても感謝しているもの。でも、もう一つだけ、付き合ってくれないかしら?」
「何……?」
「そこの博麗の巫女の抹殺よ」
「…………」
「さぁ……。雨那、あなたの全てを曝け出して?今までの過去、泥沼の人生を。そこの博麗の巫女は、あなたにとって害悪。実に害悪。あなたの幸福を全て奪い去る泥棒猫。そんなやつが今目の前にいるのよ?どうする?」
「…………っ…………」
「ちょっ……邪仙!あなた、何を……!」
 邪仙がニヤッと笑うと、霊夢の背後から物凄い憎悪と殺意を感じ取った。霊夢はすぐ後ろを振り返ろうとした瞬間、雨那の祓い棒が霊夢の左脇腹を強打し、吹き飛ばされた。
「そ………んな…………」
 威力的には強くないはずだが、ダメージが通常以上に通っている。起き上がろうにも全く力が入らない。よく見ると、周りに張っていた結界が消えていた。すると、今までずっと弱体化されていたというわけだ。迂闊だった。あの時動いて先手を取っていれば、勝っていたはずなのに。もしかして、本当に負ける……?