--- 雲海付近 ---
 かなりの高さまで飛んできただろうか。守谷神社が米粒な程の高さまできている。本当ならとても標高も高い為、とても寒いのだが、霊夢は結界を展開して寒さを凌いでいた。しかし、雲の近くまで来ると気流の流れが強すぎて保つだけでやっとだったりする。そして、やっと雲の真下に辿り着いた時、一人の女性が立ちはだかる。
「…………」
「へぇ……、あなたは関与しないとばかり思ってたんだけど」
「えぇ、まぁ、頼まれましたので」
 永江衣玖。天人。リュウグウノツカイの化身で、雷を操る者だ。この場でこいつとやり合うのはさすがに不利だ。雨雲が辺り一面にあるこのフィールドは、雷の格好の的だ。しかし、どこに移動しようにも逃げ場がないんじゃ意味がない。ここでやり合うしかないようだ。霊夢は符を取り出し構えた。
「あくまでここを通る気ね。いいでしょう。相手になりましょう」
「行くわよ!霊符『二重結界』!!」
「電符『雷鼓弾』!!」
 霊夢は衣玖のスペカを結界で防ぎつつ、突っ切る算段を立てた。そうでもしないとここの攻略は出来ないと判断した。衣玖の主は雷。モロに食らえば、よくて気絶、最悪即死かもしれない。それだけは回避したいところだ。霊夢は長期戦にならないよう、一気にカタを付ける算段を立てた。
「霊符『博麗大結界』!」
 辺り一面の雨雲が無くなり、衣玖を諸共別次元へと引きずり込んだ。
「くっ…ここは……?」
「私の領域にあなたを引きずり込んだわ。これであなたの雷も自由に使えないわ」
「そう来ましたか……。ですが、スペカは使えます。雷魚『雷雲魚遊泳弾』!」
 電気を帯びた魚が霊夢目掛けて泳ぐように蛇行して突撃した。霊夢は避けず、鬼針を使って魚を撃破した。その様子に衣玖は少々驚いた。普段なら距離を置いてホーミングや陰陽玉で迎撃するはずなのに、動く様子すらなかった。そんな考えを興じていると、目の前に霊夢がスペカを持って構えていた。
「……っ……!」
 衣玖はすかさず退避しようとしたが、霊夢のスペカ発動の方が速かった。
「神堕『天地激震掌』!」
「ふぅっ!?」
 衣玖の身体に物凄い衝撃が走った。まともに立つことのできない激しい揺れ、視界の先が、上下左右逆に見え吐き気を催す。内臓も破裂してしまうんじゃないかっていうぐらいの衝撃が一撃で詰めて襲いかかってきた。衣玖は腹を抑えうずくまった。霊夢は更に近付いてスペカを発動した。
「闇符「デスブリンガーマシンガン」!」
 祓い棒から紫色の針をマシンガンのように衣玖に射出した。衣玖はかわす余裕も無く、全て背中から命中し、そのまま倒れた。結界も効力を無くして、元の雨雲の下に戻った。衣玖はピクリとも動かず、そのまま直下の守谷神社付近の森の方へ落ちていった。
「…………」
 霊夢はもう気付いている。禍霊夢は既に自分の中に住み着いていることが。そして、今私を蝕み、禍霊夢を本体にしようとしている事を。だが、今はそれよりも異変解決を先にしないと。これより先は、雲海の上、そして首謀者のいるという寺社で首謀者を倒し、異変を解決する。霊夢は真っ直ぐ雨雲の中に入り、雲海の上へと出て寺社を目指した。