「ここは……?」
 霊夢が目を覚ますと、辺りは森ではなく、暗闇の中だった。ぼんやりとその暗闇から目のようなものが見える。霊夢自身には見覚えのある場所だ。しかし、身体が思うように動かせない。さっき禍霊夢からくらったダメージが大きかったのか起き上がることまではできない。もしかすると、このまま自分は終わりなのかさえ思ってしまっていた。そのまま横たわっていると、正面から両腕を抑えつけ、覆い被さるように禍霊夢が迫ってきた。霊夢は、必死に抵抗しようにも蓄積されたダメージと両腕を抑えつけられているからか抵抗すらできない。顔に迫られて更に顔と顔の差が縮まる。霊夢は、咄嗟に目を瞑った。何をされるか分からない、見たくない。その瞬間、唇に何か感触が伝わった。
「んうぅ…っ!?」
 禍霊夢が霊夢にキスを交わした。しかも、すぐには終わらず長い間、それは続いた。
「んぅ………っ……ふぁ………ぅぅ……」
 霊夢にとってはとても長く感じた。十数秒の長いキスが半永久的にずっと続いているような感覚だった。
「んぁ……はぁ……はぁ……」
 禍霊夢はキスを止め、霊夢から離れ、距離を取った。霊夢はキスをされて頬が赤くなってしまい、そのまま身動きが取れなくなっていた。
(こんな……私の……初めてが………)
 禍霊夢は詠唱を唱え、霊夢をコピーした。霊夢が顔を禍霊夢の方を見ると、服や装飾以外は全て自分と同じの霊夢の姿があった。これが影の本体。霊夢の巫女服の赤いとこは全て黒く、瞳は真っ黒に塗りつぶされて真ん中に赤いマルが米粒程度に見えている。闇に支配され狂気と化した私自身。
「さて、博麗の巫女。私を人間と同じ姿にしてくれたこと、感謝する。最も、貴女にはそう思ってはいないのだろうが」
「……あなたは、一体……」
「私は、博麗の巫女の影。禍霊夢。貴女が善とするなら、私は悪ということだろう」
「………私に、闇がないって考えていたのは愚問だったみたいね。前々から感じてはいたわ。貴女という存在が出てくるんじゃないかって」
「あらら、わかっていたのに。その様じゃ、説得力ないのではなくて?」
「確かに……私は怖かったもの……。異変解決をしても、私に信仰する人間なんていないし、人知れず危機から救っても得も無い。そんな環境が嫌になって闇に堕ちるんじゃないかって」
「そうね。確かに、今回の異変なんて自然的なもの、少し長い梅雨みたいなものだからね。あなたに一切の得は無いわ。でも、それならどうする?このまま帰るか、私に殺されるか、どちらかしかないわよ?」
「そうね……。でも、もう一つの道があるわ」
「?まさか、私に勝てると?」
「まさか、そんなことは思ってないわ…。でも……」
 霊夢は、ゆっくりと傷付いた身体を起こした。そして、祓い棒を左手に持ち、右手に符を取り出した。
「このまま終わるわけには行かないわ。私は私。二人もいらない」
「そう……。なら、私も全霊を込めて、貴女を殲滅し、真の博麗の巫女となるわ」